地域包括ケアシステムにおける在宅医療の推進と地域保健に係る住民ボランティアとの協働

 

 

「自助・互助・共助・公助」からみた地域包括ケアシステム

 

そもそも現代の互助って何?地域包括ケアにおける互助とは?

(「互助」の概念分析 2016年~)

しかし、そもそも互助とは何でしょうか?互助は、人類が共同生活を始めた時から、生活を営む上で協力する行為として、自然発生的に地域に存在していたと言われています。こちらは、「地域包括ケアにおける現代の互助」とはどんなものかを、文献を基に概念分析した結果です。

  • 住民間の生活課題に関する共感体験
  • 互いに補おうとする住民の自発的意識

といった互助の特性が挙がりましたが、現代社会の特徴として、互助が起こる先行要件に、「住民組織の支え合いを推進する公的仕組みの存在」が挙がりました。逆に言うと、公的な支援がなければ、互助の発生は、難しい状況にあることを表しています。

高齢者の生活支援(互助の担い手)の意向と実施

@山形県川西町吉島地区 2018年

これは、山形県川西町吉島地区で全高齢者を対象に調査した結果です。農村地区でまだ昔ながらの互助が残っているような地域です。「日常生活の困り事を抱えている地域住民に対して、何か手助けをしてあげたいと思いますか」と尋ねたところ、「手助けしたい」と意向を示した人は、58.6%でしたが、「実施していない」人が全体の31.3%を占めました。

 

住民への手助けを実施していない人の理由(高齢者を対象に調査)

@吉島地区 2018年

その理由を尋ねたところ、身近に手助けが必要な人がいないという回答が4分の1を占めました。実際には手助けを必要とする人はいるのですが、吉島地区のような農村地域であっても、近所づきあいは希薄化しており、手助けを必要とする人と担う人とのマッチングが必要ということが分かりました。このマッチングの役割は公的機関のリードが必要と考えます。これについては、この地域はNPO法人が町内会を運営しているため、その法人と共同研究し、今現在も進めているところです。慶応大学の看護医療学部と環境政策学部の興味をもってくれた2年生が、かかわってくれています。

 

互助実現のための介護予防サポーターを養成…

 @岩手県大槌町 2017年

「楽笑幸齢者になるために今するべきこと ー自分のために誰かのために一歩踏み出そう」

地域の高齢者の生活支援や健康課題の解決に向けたサポーター養成を15名に実施(2時間×4回)

  • 文献検討を基に養成プログラムを作成
  • 講座の前後比較では一定の効果は得られた

 

公的機関、つまり行政が担えることとして、互助実現のために介護予防サポーターの養成講座を、岩手県大槌町の保健師さんと、2017年にご一緒させてもらいました。地域の高齢者の生活支援や健康課題の解決に向けたサポーター養成を15名に、2時間で4回、実施しました。講座終了後には、地域課題の理解度や、介護予防への理解度は有意に上昇していました。

 

介護予防サポーターを養成してみて得たこと

  • 2時間×4回の講座では足りない・・・
    主体性を引き出す養成講座は時間がかかる
  • 参加者の多くは他の住民組織で活躍している人
     →既存の住民組織の活動を整理したり、住民組織同士の連携を考えていくことも大切
  • グループワークの中で、「こちらが支援したくても頼って貰えない」という発言
     →互助の仕組みをつくるには、頼る人の啓発も必要;「担い手と受け手」という概念をなくす

 

都道府県別 市町村が住民組織を養成・支援する割合


行政が養成・支援している住民組織である、食生活改善推進員、健康推進員、等についてもこれまで関わらせていただきました。こちらは、各組織の全国的な分布を示しています。私たちが実施した全国調査によると、全国の市町村のうち、食生活改善推進員は84.5%、健康推進員は63.2%、母子保健推進員は24.9%の市町村が養成・支援していました。

 

住民組織別のメンバーの積極性の比較

ー組織内で活発に活動しているメンバーの割合


グラフは、住民組織別に、組織内で活発に活動しているメンバーの割合を尋ねた結果です。80%以上の人が積極的に活動していると回答したのは、他の2つの組織と比較して母子保健推進員が最も高く、52.8%でした。母子保健推進員は、報酬がある割合が他の組織と比較して86.3%と高く、単変量解析ではありますが、報酬があることが母子保健推進員の積極性に関連していると考えられました。インセンティブも重要であることが伺えます。

 

健康推進員活動の満足感を高め、住民の健康にアプローチする健康教室の開発

(2015~2016年@彦根市)

健康推進員主導で行う「バランスよく食べて、介護いらずの生活を!」

 

しかし、行政は財源難ですので、私たちは、報酬を十分に支払えなくても、推進員さんに活動の楽しさややりがいを感じてもらい、満足感を高めて貰える方法を、滋賀県彦根市で検討してきました。健康推進員が主導で行う健康教室という形で提案し、私たちは、住民の健康にもよい効果をもたらすことにもこだわりました。

プログラム内容は、ご覧の通り、「バランスよく食べて、介護いらずの生活を!」です。ピンクの部分にあるように、推進員のやりがいや楽しさを高めるのに大事なのは、運営や講義を推進員が主導で実施するのはもちろんなのですが、参加者の反応を見て、推進員にしっかりと効果を感じて貰えることだと考えました。
そこで、参加者からのフィードバックを受けられるように、推進員を交えてグループワークを行ったり、参加者アンケートを実施しました。

 

健康教室を行った推進員の変化


その結果、健康教室実施後には、推進員の組織の雰囲気や活動への自信が有意に上昇しました。

 

参加者の効果

食品摂取多様性スコアの変化

参加者アウトカムは、食品接種多様性でしたが、対照群に比べて介入群は、教室実施後には有意に上昇していました。

 

住民組織の課題

最後に、私たちがもう一つ取り組んだ研修プログラムを紹介します。こちらにあるように、全国調査にあるように、住民組織は共通して、

  • メンバーが高齢化していることや、
  • 新しいメンバーが見つからないこと、等の

課題を抱えています。これは、近年の、近所づきあいの希薄化や、女性の社会進出等が影響していると考えられます。組織の課題への対策が必要です。

 

健康推進員の組織課題の解決を目的とした研修プログラム開発


そこで、組織の課題を解決するプログラムを、滋賀県湖南圏域の市町村と保健所と一緒に開発し、効果を得ました。この研修プログラムは、どこの地域でも手軽にできてお勧めなのですが、組織の課題については、私が研究を開始した20年来、変わらない課題であるため、もう少し根本的な解決が必要と思っています。

地域保健に係る住民ボランティアとの協働

まとめおよび今後の研究

地域では互助の担い手不足と言われていますが、実は受け手が支援を受け入れ慣れていないことや、マッチングできていないことも重要な課題です。また、住民組織は新たな人をリクルートする難しさ、高齢化やマンネリ化の課題をかかえています。

これらのことから、行政のボランティア養成や、住民組織のありかたは再編を迫られている状況であり、今後は、新たな住民組織のあり方や行政との協働モデルの開発に取り組んでいきたいと考えています。具体的には、有償ボランティアやビジネスモデル等の検討も必要ですが、人生100年時代を目前に、ボランティアに生きがいや、やりがいを求める高齢者もいるため、その活動方法や丁寧な養成方法を検討していく必要性もあると考えています。経験したことがないことはハードルが高く、ボランティアの必要性ややりがいへの理解が難しいため、学童期・青年期のボランティア体験の重要性も感じていることから、学童・青年期のボランティア体験を促進することも大切だと考えます。